2007年11月26日月曜日

産児制限という習慣は...



「アメリカ合衆国における避妊の普及」
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第2節 普及と抑圧

リンダ・ゴードン(Linda Gordon)によれば、産児制限という習慣は古代からさまざまな文化圏において広く認められるものだ。8 その一方で、個人による産児制限の試みをコミュニティが抑制する伝統も古い。9 それでは、避妊を普及させようとする力とそれを抑圧しようとする力の衝突が合衆国レベルに発展したのはいつごろなのだろうか。
まずは年表的事項をいくつか挙げることからはじめてみよう。当局が避妊を取り締まる法的根拠としたコムストック法が議会で可決されたのは1873年。「バース・コントロール」という用語がマーガレット・サンガー(Margaret Sanger)によって発明されたのは1915年のことだ。10 また、1916年10月16日にはサンガーによる最初のクリニックがニューヨークのブルックリンで開業している。11 避妊の普及と大きく関わる第一次世界大戦への参戦が決まったのが1917年4月。そして、避妊についてコムストック法を適用することが違憲とされたのは1936年のことだ。こうして列挙してみると、避妊が全国的な問題とされたのは20世紀前半と見てよいだろう。20世紀前半という時代を意識しつつ、続いて出生率や避妊技術の移り変わりをみてみたい。

人口統計の推移

人口統計に見られる変化から産児制限の広まりを捉えることはできないだろうか。1800年から2000年までのアメリカ合衆国における合計出生率は下のグラフの通りに推移している。12


図 1. アメリカ合衆国における合計出生率13


まず目を引くのは19世紀前半から第2次世界大戦期まで、出生率が人種に関わらず下降の一途をたどっていることである。すなわち、避妊の是非が公の場で論じられようになる以前からすでに出生率の低下は進行しており、何らかの抑制が働いていたことが読み取れる。図1は人種による出生率の差を示しているが、アメリカに関する統計を扱う際には地域による差も忘れてはならない。例えば、1940年に白人女性の合計出生率は2.22で底を打っているが、1930年代の南部白人小作農を対象としたヘイグッドの調査結果は6.4という3倍近い値をはじき出している。14 この数字は合衆国平均から見ればおよそ100年前の水準ということになるが、子どもが7人以上いた家庭が全体の2/3を占め、10人を超える場合も少なくなかったということから、その地域においてはむしろ自然なことだったことが分かる。したがって、子どもの数は2人か3人というほぼ均一な状態が全国的にあったわけではなく、都市部と非都市部ではかなり大きな開きがあったと考えられる。次に、都市部と非都市部を比較するため、居住地域別に見た20歳~44歳までの女性1,000人当りの5歳以下の子どもの数の変化を見てみよう。


図 2. 居住地域別に見た20歳~44歳までの女性1,000人当りの5歳以下の子どもの数15


2つのグラフから人種や居住地域による差は明白であるが、現代に近づくにしたがって徐々にその差が縮まっていることも見て取れる。このような傾向は、アメリカ人が人種や居住地域の差に左右されることなく、標準的な子どもの数として近い数字を思い描きながら計画的に家族を形成しつつあることを表しているのではないだろうか。

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8 Gordon, Linda. Woman’s Body, Woman’s Right: A Social History of Birth Control in America (Revised and Updated), New York: Penguin Books, 1990, 26
9 Ibid., 4
10 Ibid., 206
11 Ibid., 231
12 合計出生率(total fertility rate)は特定の時期に生きた1人の女性が生涯に産む子どもの合計数の平均より算出される。
13 グラフは“Fertility and Mortality in the United States,” EH. Net Encyclopediaの表より一部のデータを抜粋して作成した。
14 Hagood, 109
15 グラフはアメリカ合衆国商務省 編『アメリカ歴史統計・第Ⅰ巻(新装版)』東京: 東洋書林, 1999年, 54の「人種・民族、居住地域および知り上の区域別に見た20歳~44歳までの女子1,000人当りの5歳以下の子供数:1800-1970」という表より、一部のデータを抜粋して作成した。

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