僕は卓子(テーブル)の上に、
黒猫のほかにはなんにも載せないで、毎日々々、ジッとそいつを見詰めてゐた。
いや、そのほかに三毛と斑と、
鯖虎くらゐは載つかつてゐた。
いや、時とするとまた別の黒猫を持つて来て、
顔を埋めて(うづめて)まどろむこともあつた。
戸外(そと)では仔猫がにゃあにゃあ鳴いてゐた。
野良は垣根をくぐつて、腹を空かせたのがよく迷い込んだ。
思ひなく、日なく月なく時は過ぎ、
とある朝、僕は死んでゐた。
卓子に伏した僕の身体(からだ)は、
やがて猫たちによつて瞬く間に平らげられた。
――さつぱりとした。さつぱりとした。
(原文:中原中也『夏』)
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